「宇都宮さんはフェルメールが好きなんですか」と吉武弘樹さん。「どの作品が好きなんですか?」と食い入るように質問してきた。「手紙を書く女」「窓辺で手紙を読む女」 2008年日本で特別公開された「手紙を書く婦人と召使」それに「デルフトの眺望」

吉武弘樹さんは芸大時代、上野だけでなく、ワシントンDCにも行き観たとのこと。それだけに光の天才画家、フェルメールは彼の画業に重要な位置を占めていると感じた。

吉武弘樹さんの「未来の計画」 この一枚の絵画に彼の語らんとする未来が物語れているが、この未来の計画は観る人がそれぞれ想い抱く明るい未来である。そして、溢れる才能の画家としての未来の計画を込めている作品である。

 吉武弘樹

吉武弘樹さんは東京芸大・大学院卒 卒業制作が首席に与えられる平山郁夫賞・台東区賞を受賞された。今年春、日動画廊が行う51回の昭和会を受賞。洋画壇の芥川賞みたいなものだ。第1回は奥谷博以下入江観、山本貞さんなどその後活躍している洋画壇の重鎮を輩出している。

「禁断の園のアダムとイブが・・・」と吉武弘樹さんが「未来の計画」の題材の話を物静かにされた。そのアダムとイブがいる小山の下には龍の目が黒く描かれている」

川端康成は芥川賞の選考委員をしていた僕が高校生のときの名言を今も覚えている。「作家は処女作にむかって成熟する」

其のひそみに倣えば吉武弘樹さんの絵画はその物語性である。50号の作品。偶然、交詢社に用があり、その帰り、日動画廊に寄った。購入するのに1分もかからなかった。名作で創徳のオフィスのエントランスに飾ってある。

 

吉武弘樹さん

春陽会の入江観さんと六本木の東京国際会館で晩秋の夜、会食をした。先月、10日間ほどパリに野見山暁治さん(95歳、文化勲章受賞)と81歳の入江観さんの2人の留学の思い出の地、パリに行かれた話しを楽しく聞かせて頂いた。もう、これが最後のパリと野見山暁治さん、十数年先輩の野見山暁治さんとパリでの初対面の話し、美術館巡りでピカソとジャコメッティの展覧会でジャコメッティが一歩も引いていないなど熱く語る入江観。少年のようなきらきらした目に変わっていた。

閑静な庭園の向こうには赤い東京タワー。綺麗なガラス窓に東京タワーと二重写しの自分の姿。ふと、ここにいる自分は137億2千万年に起こったビックバンで無から生まれ、そして2兆年後にはあとかたもなく姿を消す存在のなかの塵。およそ4千億の銀河が存在して、自分のいる銀河はその中のひとつと考えると、過去も現在も未来にも私は何人も生まれては、消えてゆく。

ナプキンをテーブルに置き、後にした。これは壺中の出来事。

 

日光中禅寺湖